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4月も半ばを過ぎ、新入社員の皆さんも徐々に職場に慣れてきたころではないだろうか。日本の採用は新卒一括採用が基本であるため、多くの企業では4月の採用と同時に新人研修を実施している。まだ研修期間が続いている企業もあるだろう。

筆者はかつて社内研修の企画を担当し、自身も数多くの研修に参加したが、受講生のモチベーションを大きく向上させる素晴らしい研修がある一方「トンデモ」な研修も見聞きした。

自分の入社した会社がブラック企業かどうかは新入社員の一大関心事だと思われるが、新人研修の内容からも自社のブラック度をうかがい知ることができるというのが、元研修担当者である筆者の実感である。

本稿では、あるべき研修の姿を議論しながら、研修と企業のブラック度の関係について考えてみたい。

■その研修に「会社の意図」を感じるか?

まず注目したいのが、研修に「企業側の意図」を感じるかどうかだ。例えば近年人気を博している「新入社員を自衛隊に体験入隊させる研修」を例にして考えてみたい。以下がその概要だ。
一般的な体験内容は、まずは『基本教練』と呼ばれる、個人や集団の行動に関する基本動作を行います。これは、気をつけ、休め、右(左)向け右(左)、回れ右、敬礼や、集団での行進などです。
~中略~
細部については、依頼する企業と受け入れ部隊との調整で決定します。日程は、一般的には2~3日程度となっています。
音を上げたりしない? 企業が新入社員研修に自衛隊「体験入隊」を取り入れる理由 オトナンサー 2019/04/12

この研修の目的は「社会人になる第一歩として団体意識を持つことを徹底すること」や「何を体験し、そのときどう考える自分がいるのかを参加者一人一人が見つめ直すこと」であるという。さらには「過重労働や理不尽な職場環境を見据えて、あらかじめ音を上げるということを一つの目的にしているのかもしれない」と指摘する。

■研修デザイン力がない企業は、アブナイ。
研修を企画する際はその目的と、目的達成のための資源を考え抜くことが重要だ。分かりやすく言えば「研修をデザインする」ことが基本となる。その視点に立てば、前掲記事の目的を達成する手段は果たして「自衛隊体験入隊」だけなのだろうか。

問題提起するまでもなく「団体意識を持つこと」や「自分を見つめ直すこと」は、自衛隊への体験入隊以外の方法でも実現可能だ。あらゆる選択肢を比較検討した結果、自衛隊への体験入隊がベストだと判断したのであれば問題はないが、果たして体験入隊を利用する企業の経営者や研修担当者がそこまで検討したかは疑問である。

新入社員の立場からすれば、企業側から「自衛隊に体験入隊する研修の目的や意義」について明確な説明があったかどうかが重要だ。「とりあえず黙って参加せよ!」という姿勢や「必ず今後の糧になるはず」といった精神論に終始する場合、研修担当者が深く考えずに「ノリ」で企画した研修である可能性が高い。

また、社会で働く限り新入社員は理不尽な言動を見聞きしたり腑落ちしないことも経験するだろう。しかし、あらかじめそうした環境を前提にして「新入社員を鍛える」という発想は正しいのか。業務過多や職場環境の改善が先ではないかとツッコミたい気持ちになってしまう。

■研修担当者は意欲的か?
企業の研修デザイン力が高くない場合、研修あっせん企業の研修パッケージがそのまま利用されるケースもある。

例えば、中途採用の同期社員が複数いるのにも関わらず定型的なマナー研修を行う、シニア講師が自身の体験談ばかり延々と話すなどは、研修担当者が主体的に関与しない研修で起こりがちなパターンだ。

また、研修には事務局として研修担当者が同席することが多いが、研修に意欲的でない担当者ほど不在のケースが多い。事務局は温度の管理やOA機器の操作、その他講師との連絡調整など細かな業務を行う必要がある。細かなことだが、このような研修の質や実施体制にも注目したい。

近年、人事管理の業界で「リテンション」という言葉がキーワードとなっている。これは「待遇の改善や、社内コミュニケーション活性化の他、能力開発・教育制度の制定、キャリアプランの提示など、社員の働きやすい環境を整えていく施策(退職を防ぐ?リテンションとは何ですか? en人事のミカタ 2019/04/16)」を指す。

人材育成を経営課題と考える会社は、リテンションの発想を取り入れて新人研修にも力を入れている。そのような研修に参加すれば、新入社員は自己成長が図れたり今後のキャリアビジョンが明らかになったりと、有意義な時間を過ごせるだろう。

人を大切にする企業は新人研修を通して「釣った魚にもエサを与える」のである。さて、あなたの入社した企業は如何だろうか?

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。